「違法ビラ配布名誉毀損事件」高裁判決

平成20年2月13日判決言渡
同日判決原本領収
裁判所書記官:吉野邦央
平成19年(ネ)第3123号各損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所 平成16年(ワ)第17143号,平成17年(ワ)第18853号)
口頭弁論終結日:平成19年12月3日



[判決]
控訴人兼被控訴人(以下「1審原告」という):大草一男

控訴人兼被控訴人(以下「1審原告」という):妙観講、代表者講頭 大草一男

2名訴訟代理人弁護士:大島真人、小川原優之

東京都新宿区信濃町32番地
被控訴人(以下「1審被告」という):創価学会、代表者代表役員 正木正明

訴訟代理人弁護士:宮山雅行、桝井眞二、豊浜由行

控訴人兼被控訴人(以下「1審被告」という):佐渡正浩

訴訟代理人弁護士:河野孝之、若井広光

控訴人兼被控訴人(以下「1審被告」という):山本伸一
訴訟代理人弁護士:嘉多山宗、志賀清二郎

控訴人兼被控訴人(以下「1審被告」という):高橋浩一

訴訟代理人弁護士:海野秀樹、新名広宣



【主文】
1 本件各控訴をいずれも棄却する。

2 控訴費用は,1審原告らの控訴に係る部分は1審原告らの,1審被告創価学会を除く1審被告らの控訴に係る部分は同1審被告らの各負担とする。



【事実及び理由】
第1 控訴の趣旨
1 1審原告ら原判決を次のとおり変更する。
(1)1審被告創価学会,1審被告佐渡正浩(以下「1審被告佐渡」という),1審被告山本伸一(以下「1審被告山本」という)及び1審被告高橋浩一(以下「1審被告高橋」という)は,1審原告妙観講に対し,連帯して,3000万円及びこれに対する1審被告創価学会,,1審被告佐渡及び1審被告山本は平成16年8月20日から,1審被告高橋は平成17年2月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)1審被告創価学会,1審被告佐渡,1審被告山本及び1審被告高橋は,1審原告大草一男(以下「1審原告大草」という)に対し,連帯して,3000万円及びこれに対する1審被告創価学会,1審被告佐渡及び1審被告山本は平成16年8月20日から,1審被告高橋は平成17年2月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)1審被告創価学会及び1審被告高橋は,1審原告妙観講に対し,連帯して,1000万円及びこれに対する成13年10月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)1審被告創価学会及び1審被告高橋は,1審原告大草に対し,連帯して,1000万円及びこれに対する平成13年10月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


2 1審被告佐渡,1審被告山本及び1審被告高橋
(1)原判決中,上記各1審被告敗訴部分を取り消す。

(2)1審原告らの上記各1審被告に対する請求をいずれも棄却する。



第2 事案の概要
1 本件は,宗教法人日蓮正宗(以下「日蓮正宗」という)の信徒団体である1審原告妙観講とその代表者(講頭)である1審原告大草が,@1審被告高橋は,1審原告らを中傷する内容の「政界進出をたくらむ狂信的カルト集団『妙観講の恐怖』」の大見出しの付されたビラ(以下「本件ビラ1」という)及び「淫祠邪教・カルト集団『妙観講』の恐怖」の大見出しが付されたビラ(以下「本件ビラ2」という)を作成して,平成13年9月ころ,本件ビラ1を東京都杉並区内ほぼ全域等に配布し,また,同16年2月11日未明,本件ビラ2を杉並区西荻のマンションや富士宮のマンション等の郵便受けに投函し,付近の自動販売機や電信柱に貼り付けるなどし,A1審被告佐渡,1審被告山本,山本欣嗣及び菊地和一は,本件ビラ2を配布し,B1審被告創価学会は,上記@及びAの各行為を指示し,又は上記@及びAの各行為は1審被告創価学会の業務として行われたものであるところ,上記@及びAの各行為の結果,1審原告らは名誉を毀損されたと主張して,上記各1審被告らと山本欣嗣及び菊地和一 訴訟承継人菊地哲哉に対し,不法行為に基づく損害の賠償を請求した事件である。

原判決は,1審原告らの請求のうち,1審被告佐渡,1審被告山本及び1審被告高橋に対する請求の一部を認容したが,1審被告創価学会,山本欣嗣及び菊地哲哉に対する請求はすべて棄却したところ,1審原告らが,1審被告佐渡,1審被告山本及び1審被告高橋に対する請求の一部を棄却した部分並びに1審被告創価学会に対する請求を棄却した部分に不服を申し立てて,1審被告佐渡,1審被告山本及び1審被告高橋が1審原告らの上記1審被告らに対する請求の一部を認容した部分に不服を申し立てて,それぞれ控訴をした(原判決中,1審原告らの山本欣嗣及び菊地哲哉に対する請求を棄却した部分については,不服の申立てはなく,当審の審理の範囲となっていない)。


2 事案の概要の詳細は,次のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」2ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,山本欣嗣及び菊地哲哉に対する請求に関する部分を除く。)。
(1)原判決5頁15行目に「(前提事実)」とあるのを,「(本件各ビラの内容については,1審被告創価学会以外の被告らとの間では争いがなく,1審被告創価学会との間では,甲1号証及び甲29号証によってこれを認め,本件各ビラの配布の日時,範囲,態様については,甲15号証ないし17号証,原審における1審原告大草本人の供述及び弁論の全趣旨によってこれを認める。)」と改める。

(2)同5頁18行目の「住宅」から「貼付された。」までを「住宅の郵便受けに投函され,又は電柱等に貼付された。」と改める。

(3)同7頁21,22頁の「東京都杉並区などで」とあるのを,「東京都杉並区を初め,宮城県,千葉県,埼玉県,神奈川県,静岡県,三重県,京都府,大阪府,徳島県において,少なくとも10都府県下の34の市区町において」と改める。




第3 当裁判所の判断

 当裁判所も,1審原告らの請求は,1審被告佐渡,1審被告山本及び1審被告高橋に対し,連帯して,各1審原告に対する70万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め,1審被告高橋に対し,各1審原告に対する70万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであるが,1審原告らの上記各1審被告に対するその余の請求及び1審被告創価学会に対する請求は,いずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。
 その理由は,以下に説示するとおりである。

1 1審原告妙観講の当事者能力
当裁判所も,1審原告妙観講は,権利能力なき社団に当たり,当事者能力を有するものと判断する。その理由は,次のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3争点に対する判断」1(1)(原判決45頁11行目目冒頭から47頁8行目末尾まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決46頁16行目の「原告妙観講は,」から17行目の「所有していること,」までを,「1審原告妙観講では,理事会の決議に基づき,その活動の本拠とするために東京都杉並区西荻北5丁日10番2所在の土地及び建物を購入していること,1審原告妙観講理事会においては,各期の活動内容について,各部を担当する理事から活動報告がされ,各期の活動方針や収支報告について承認をしていること,」

(2)同46頁末行から47頁1行目にかけて「まかなってきたものと」とあるのを,「まかなうほか,その活動拠点となる不動産も所有しているものと」と改め,2行目の「指導下にあるものの,」の次に,「1審原告妙観講の講員のうちから任命された理事によって構成される理事会の決議に基づく活動方針の下,」を加え,4行目に「充てていたことが窺われるから,」とあるのを,「充て,その収支が独立して管理され,固有の財産も所有しているものということができるから,」と改め,8行目の末尾に,「この判断と異なる1審被告佐渡及び1審被告山本の主張は,独自の見解であって採用することができない。」を加える。



2 本件各ビラの作成及び配布に関する1審被告創価学会の関与について
(1)証拠(甲2,4ないし6,8,15ないし17,28の1,29,147ないし152,乙ハ101,102,乙ホ12,原審における1審原告大草本人,1審被告高橋,1審被告山本及び1審被告佐渡各本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
日蓮正宗は,日蓮を宗祖とする宗教法人法による宗教法人であり,理境坊は,日蓮正宗総本山大石寺の末寺であって,日蓮正宗を包括宗教法人とする被包括宗教法人である。1審原告妙観講は,理境坊に所属する法華講中(日蓮正宗の信徒団体)であり,1審原告大草が,昭和55年8月の結成以来,その代表者である講頭の地位にある。

1審被告創価学会は,昭和27年9月8日に法人格を取得した宗教法人である。

1審被告創価学会は,日蓮正宗の信徒団体であったが,平成2年ごろ以降,日蓮正宗と対立するようになり,日蓮正宗は,平成3年11月28日,1審被告創価学会を破門した。その後,1審被告創価学会は,自らを真の日蓮正宗であるとし,日蓮正宗を,その代表者である管長阿部日顕の名から「日顕宗」と称するなどして非難するようになった。このような中,1審被告創価学会は,その機関紙である「創価新報」において,日蓮正宗と闘争をせず,日蓮正宗に布教をさせておくこと自体が1審被告創価学会の会員にとっての悪であるとした上,日蓮正宗並びにその信徒団体である1審原告妙観講及びその代表者である1審原告大草を謀略集団などとして批判する記事を掲載するなど,1審原告らに対する批判を継続的に行っていた。

1審被告佐渡及び1審被告高橋はいずれも東京都杉並区在住の,1審被告山本は静岡県富士市在住の創価学会員である。

1審被告高橋は,本件ビラ1が配布された平成13年9月当時,創価学会の地区組織の副書記長を,本件ビラ2が配布された平成16年2月当時,同学会の地区組織の青年部副部長を務めていた。
1審被告佐渡は,本件ビラ2が配布された平成16年2月当時,創価学会の地区組織の男子部の部長を務めており,「審被告高橋から依頼を受けて東京都杉並区内で本件ビラ2の配布を行い,1審被告山本は,当時,創価学会富士正義県青年部の部長を務めており,創価学会の壮年部の支部又は地区の幹部からの依頼を受けて静岡県富士宮市内で本件ビラ2の配布を行った。


(2)上記(1〉に認定したように,1審被告創価学会は,日蓮正宗に破門されて以来,その機関紙を通じて1審原告妙観講及び1審原告大草を批判する活動を継続的に行っていたこと,本件各ビラの作成,配布等に関与したことを自認する1審被告高橋,同佐渡及び同山本は,その配布当時,いずれも役職を有する創価学会員であったことに加え,本件ビラ1は,平成13年9月20日ころ,少なくとも1万枚以上が東京都杉並区内及び長野県佐久市内において広く配布され・本件ビラ2は・平成16年2月10日深夜から同月13日午前4時までのわずか数日間のうちに,少なくとも1万5000枚以上が,1審被告高橋が在住する東京都杉並区のみならず,宮城県,千葉県,埼玉県,神奈川県,静岡県,三重県,京都府,大阪府,徳島県等の広い範囲において配布されたり,公衆電話ボックス内,電柱等に貼付されたりしたことは,前記争いのない事実等(1)及び(2)のとおりであって,ごく短時間に,広い範囲にわたって,多数のビラが配布等されたものといえる。しかも,本件各ビラは,いずれもカラー印刷の両面刷りの文書であって,その作成には相当多額の費用を要するものと推認され,これを自らの出費とカンパによって賄ったとの趣旨の原審における1審被告高橋本人の供述部分はにわかに信用し難く,上記認定のように,本件各ビラが,ごく短時間に,広い範囲にわたって,多数配布されるなどしたことをも総合すると,本件各ビラの作成,配布等が,1審被告高橋が友人・知人の協力を得て行った個人的な活動であるとは到底認め難い。そして,甲17号証(佐貫修一の陳述書)によれば,妙観講の会員である佐貫修一は,平成16年6月8日,富士宮市内での本件ビラ2の配布に関与したことが確認された1審被告山本に対し,東京在住の創価学会員を装って電話を掛け,ビラの配布について尋ねたところ,1審被告山本は,創価学会の総県幹部,圏幹部,広宣部,男子部の組織を挙げてビラの配布を行ったとの説明をしたことが認められること(なお,原審における1審被告山本本人の供述中には,この認定に反するともみられる部分があるが,同1審被告は,電話の内容については覚えていないと供述するなど,甲17号証による佐貫修一の陳述内容を具体的に否定するものではない上,上記(1)の認定事実に照らすと,甲17号証の信用性は高いものということができるので,1審被告山本の上記供述部分によっては,上記認定は左右されない)をも総合考慮すると,本件各ビラの作成,配布等については,1審被告創価学会のいずれかの組織を構成する相当多数の学会員がその意思を通じて関与をしていたものと推認することができる。しかしながら,上記認定を超えて,1審被告創価学会の法人としての意思決定の下に,1審被告創価学会の業務として本件各ビラの作成,配布等が行われたとの事実を認めるに足りる的確な証拠はないし,1審被告創価学会の代表者が本件各ビラの作成,配布等に関与したことを認めるに足りる的確な証拠もない。結局,本件記録を精査しても,1審被告創価学会のいかなる組織の,いかなる地位にある者が,どのような態様で本件各ビラの作成,配布等に関与したのかについては,およそ具体的な事実を確定するには至らないものというほかはない。1審被告創価学会のいずれかの組織を構成する相当多数の学会員が本件各ビラの作成,配布等に関与していたことを推認することができるというだけでは,1審被告創価学会が,本件各ビラの作成,配布等につき,共同不法行為責任や使用者責任を負うと解することはできないのであって,1審原告らの1審被告創価学会に対する請求は,その余の点を判断するまでもなく,理由がないものというほかはない。



3 本件各ビラによる1審原告らの社会的評価の低下(名誉毀損該当性)
(1)本件各ビラの記載の内容及び体裁並びにその配布等の態様は,前記争いのない事実等(1)及び(2)のとおりであり,そのいずれもが,カラー印刷で,本件ビラ1(甲29)は,その表面の右側に,大きく1審原告妙観講の代表者である1審原告大草の顔写真とオウム真理教教祖麻原彰晃の顔写真を上下に並べて掲載したうえ,「区民の皆さん!!ご存知ですか!!オウムだけではない!!」,「政界進出をたくらむ狂信的カルト教団」との大見出しを付した上,「『妙観講』の恐怖」との更に大きな大見出しを掲げ,裏面にも,その右側に,「『オウム』や『法の華』の二の舞いはもうごめん!!」,「妙観講は直ちに区外退去せよ!!」との大見出しを掲げ,左側上部にも,「知らなかったではすまされない!!カルト教団『妙観講』の恐るべき実態」との赤色の大見出しを掲げている。また,本件ビラ2(甲1)は,その表面の右側に,大きく阿部日顕及び1審原告大草の顔写真とオウム真理教教祖麻原彰晃の顔写真及び白装束の宗教団体(パナウェーブ)の写真を並べて掲載した上,「淫祠邪教・カルト集団」との赤字の大見出しと更に大きく「『妙観講』の恐怖!」との大見出しを掲げ,裏面にも,その右側に,「あなたの近所にも潜んでいる」,「カルト教団妙観講の驚くべき実態」との大見出しを掲げ,上部にも,「オウムやパナウェーブに続く危険な団体!」「妙観講よ即刻出ていけ!」との大見出しを掲げている。
 そして,本件各ビラは,いずれも,住宅の郵便受けに投函され,電柱等に貼付されるという態様で不特定多数の者の日に触れたことも前記争いのない事実等(1)及び(2)記載のとおりであって,このような態様でビラを日にする一般の者を基準にすると,これらの者は,大見出しや写真にまず目を止め,本文を仔細に読む前に,これらによってビラの記載内容についての印象を大きく決定付けられることは否定することができない。このことを考慮すると,本件各ビラは,まず,上記の大見出しの記載や掲載した写真によって,1審原告妙観講がオウム真理教等に類る狂信的なカルト教団であり,1審原告大草は,オウム真理教等の教祖であった麻原彰晃と同じような人物であるとの意見ないし論評を記載するものとみることができる。したがって,本件各ビラは,既にこの点において,1審原告らの社会的評価を著しく低下させるものというべきである。

(2)本件ビラ1のその余の記載についてみると,本件ビラ1においては,その表面において,上記の大見出しに引き続き,1審原告妙観講が,1審原告大草を絶対的指導者と仰ぐ集団であり,非常識な活動によって社会を騒がせている旨を記述した上,@無差別電話による勧誘活動を行っていること,A他教団との抗争など数々の暴力事件を起こしていること,B盗聴行為を行ったとして,被害者から民事訴訟を起こされでいること,C平成13年7月の参議院議員選挙に候補者を擁立したが,数々の違法な選挙運動を行ったとして告発されたことが記述され,更に,裏面においては,「無差別電話による布教」,「他教団との暴力による抗争」,「盗聴などの違法行為の数々」との小見出しを設けて,重ねて,@ないしBの記述がされているほか,「教団トップと女性信者との乱れた性関係」との小見出しの下に,D1審原告大草が女性信者と淫らな関係を持つなど,1審原告妙観講内には乱れた男女関係があることが記述されている。上記記述のうち,上記B及びCの各記述自体は,1審原告妙観講が,盗聴行為を行ったとして被害者から民事裁判を起こされている旨及び平成13年7月の参議院議員選挙において数々の違法な選挙運動を行ったとして告発された旨を記述しているにとどまるものの,上記の各記述が,上記のような大見出しや小見出しを付けて,1審原告妙観講が違法行為や反社会的な活動を行っているという文脈の下で,@,Aの事実と並列的に記載されていることや,本件ビラ1の配布等の態様に照らすと,これを目にする一般の者が各記述を仔細に読み込むことは想定し難く,上記のような態様で本件ビラ1を目にする一般の者の読み方を基準にすると,これらの者は,1審原告妙観講が,現に盗聴行為や違法な選挙運動を行ったとの印象を受けるものと認めるのが相当であって,本件ビラ1は,1審原告妙観講が,無差別電話による布教,他教団との暴力抗争,盗聴,選挙違反等の各違法行為ないし反社会的活動を行っており,教団内には乱れた男女関係があることを摘示するものと認めるのが相当である。そして,本件ビラ1は,そこに摘示された事実と上記の大見出しや裏面の小見出しとが相まって,1審原告妙観講が,オウム真理教と同様の狂信的な宗教的団体であり,組織的に上記のような各違法行為ないし反社会的な活動を行っており,住民の生活の平穏を害する危険性がある旨を印象付けるものということができ,これが,1審原告妙観講の社会的評価を著しく低下させるものであることは明らかである。そして,1審原告大草についても,上記(1)のような写真の掲載にとどまらず,1審原告妙観講において,絶対的指導者と仰がれている旨の記述がされることによって,本件ビラ1を目にする一般の者の読み方を基準にすると,1審原告大草が,その中心となって1審原告妙観講の違法行為ないし反社会的活動を指揮し,推進しているとの印象を与えるものというべきであるし,また,上記Dの記述によって,1審原告大草が女性信者との間で,反道徳的で,倫理に反した男女関係を持っているとの印象を与えるものということができ,これらの記述が,1審原告大草の社会的評価をも低下させるものであることは明らかである。

(3)次いで,本件ビラ2のその余の記載についてみると,その表面上部に,「『9・11テロ』を自分たちを非難した『罰』と語る狂気」,「イラン地震も『我々を批判したから5万人が死んだ』と発言!!」との大見出しを掲げた上,1審原告妙観講が,機関紙において2001年9月11日に発生した同時多発テロは阿部日顕を批判した罰である旨を述べ,阿部日顕もイラン地震は日蓮正宗を批判した罰であると発言しているとの事実が摘示され,更に,1審原告妙観講は,1審原告大草を頭目に反社会的な行動を繰り返している教団であり,過激な勧誘,ストーカー行為,暴力,乱れた男女関係等々が日常的であるとの事実が摘示されている。また,裏面においては,「政界進出の黒い野望」,「他教団との暴力抗争」,「教団内部での乱れた男女関係」,「恐るべき尾行・ストーカー狂団」,「無差別電話による異常な勧誘」との小見出しの下に,1審原告妙観講が,@平成13年の参議院議員選挙で独自侯補を擁立し,その選挙運動の過程で,虚偽事項公表,証紙譲渡禁止違反,公記号不正使用など数々の選挙違反を行ったこと,A顕正会など他教団との間で暴力抗争を行っていること,B1審原告大草を始めとして,1審原告妙観講内の男女の間には乱れた男女関係が存在していること,C勧誘目的で他教団の女性に執拗な尾行・ストーカー行為を繰り返していること,D無差別に全く面識のない住民に電話を掛けて入信の勧誘を行っていること,Eこれらの活動により地域住民の平穏な生活が脅かされていること,以上の事実が摘示さ、れている。本件ビラ2は,そこに摘示された事実と上記の大見出しや裏面の小見出しとが相まって,1審原告妙観講が,同時多発テロやイラン地震を自分たちを非難した「罰」であるとの,狂気とも思える思想を持つ,オウム真理教等と同様の狂信的な宗教的団体あり,組織的に上記のような各違法行為ないし反社会的な活動を行っており,住民の生活の平穏を害する危険性がある旨を印象付けるものということができ,本件ビラ2が,1審原告妙観講の社会的評価を著しく低下させるものであることは明らかである。
 そして,1審原告大草についても,上記(1)のような写真の掲載にとどまらず,1審原告妙観講が1審原告大草を頭目に反社会的な行動を繰り返しているとの記述がされることによって,本件ビラ2を目にする一般の者の読み方を基準にすると,1審原告大草が,その中心となって1審原告妙観講の違法行為ないし反社会的活動を指揮し推進しているとの印象を与えるものというべきであるし,また,上記Bの記述こよって,1審原告大草が女性信者との間で,反道徳的で,倫理に反した男女関係を持っているとの印象を与えるものということができ,これらの記述が,1審原告大草の社会的評価をも低下させるものであることは明らかである。

(4)以上に認定説示したように,本件各ビラは,1審原告らの社会的評価を低下させるものであって,これが,それぞれ,1審原告らの名誉を毀損することは明らかである。これに反する1審被告佐渡,同山本及び同高橋(以下,以上3名を「1審被告高橋ら」という)の主張は,本件各ビラの内容に照らし,独自の見解といわざるを得ず,これを採用することができず,他に上記認定判断を左右するに足りる証拠はない。


4 本件各ビラ配布の違法性阻却事由又は責任阻却事由
(1)本件各ビラは,そのいずれもが,1審原告らの名誉を毀損するものであることは,上記3に説示したとおりであるところ,本件各ビラの作成,配布等が,公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示された事実がその重要な部分について真実であると証明されたとき(意見ないし論評については,その前提となる事実の重要な部分について真実であると証明されたとき)は,その行為に違法性がなく,仮に真実であることの証明がなされなくても,その行為者がその重要な部分につき真実であると信じたことに相当の理由があるときは,その故意又は過失が否定され,不法行為は成立しないものと解されるので検討する。

(2)本件各ビラ配布等の目的
 そこでまず,本件各ビラの配布等が,専ら公益を図る目的の下に行われたものと認めることができるか否かについて検討すると,上記3(2)及び(3)に説示したところによれば,本件各ビラは1審原告らが行っているとする違法行為を摘示するものであるところ原審における1審被告高橋,同佐渡及び同山本各本人の供述中には,要旨,1審被告高橋は,自ら経験し,又は他人から聞いた事実から,1審原告妙観講が反社会的な狂信的な集団であると認識するようになり,その狂信的かつ独善的な体質による危険性を社会に知らしめ,社会に警鐘を鳴らすことを目的として,本件各ビラの配布等を行ったものであり,1審被告佐渡は,1審被告高橋の考えに共鳴して,1審被告高橋の依頼を受けて本件ビラ2の配布に協力したものであり,1審被告山本も,1審原告妙観講による強引な勧誘を体験していたことなどから,本件ビラ2の配布に協力することになった旨の,1審被告高橋らの主張に沿う部分がある。
 しかし,本件各ビラの記載内容及び体裁並びにその配布等の態様は,前記争いのない事実等(1)及び(2)に記載のとおりであるところ,本件各ビラは,住宅の郵便受けに投函され,電柱等に貼付されるという態様で不特定多数の者の目に触れたものであり,このような態様で配布等がされた本件各ビラを目にした者がまず目に止めることが明らかな本件各ビラの表面及び裏面の大見出し記載や掲載された写真が上記3(1)に認定説示したようなものであることや,本件各ビラの色調,レイアウト,大見出しの表現振りなどを総合すると,本件各ビラが,冷静かつ真摯に,1審原告らの違法行為について一般に知らしめることを目的とするものとは到底評価できず,本件各ビラは,これを見る者の視覚に訴え,1審原告妙観講がオウム真理教等と同類のカルト教団であることをセンセーショナルに印象付け,1審原告らの危険性を喧伝するものであるとの評価を免れないものといわざるを得ない。しかも,証拠(甲1,15,16,29,原審における1審被告高橋,同佐渡及び同山本各本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件各ビラが配布等されたのは,いずれも未明から早朝にかけての時間帯であったことに加え,本件各ビラは,その作成名義人として,裏面左下隅にごく小さく「『妙観講』全国被害者連絡協議会」との記載がされているだけで,上記協議会の連絡先の記載すらない,文責がおよそ明らかでない文書であることが認められる。このような配布の仕方は,敢えて人目を避け,その作成,配布等の責任の所在を明らかにしない無責任極まりないものであって,自らの責任の下に,その意見を公益を図る目的のために表明しようとする者が取るべき姿勢とは,およそかけ離れたものというほかはない。そして,前記2(1)及び(2)に認定説示したように,1審被告創価学会は,その機関紙である「創価新報」において,日蓮正宗と闘争をせず,日蓮正宗に布教をさせておくこと自体が1審被告創価学会の会員にとっての悪であるとした上,日蓮正宗並びにその信徒団体である1審原告妙観講及びその代表者である1審原告大草を謀略集団などとして批判する記事を掲載するなど,1審原告らに対する批判を継続的に行っていた上,本件各ビラの作成,配布等についても,1審被告創価学会のいずれかの組織を構成する相当多数の学会員が関与をしていたことが推認できるのである。これらの事実関係を総合すれば,本件各ビラの配布等は,1審原告妙観講,ひいては日蓮正宗と深刻な対立関係にある1審被告創価学会の学会員の一部が,1審原告妙観講がオウム真理教等と同類の危険なカルト集団であって,1審原告大草がオウム真理教の教祖であった麻原彰晃と同じような危険な人物であることを広く一般に印象付け,これを中傷することを目的としたものであるとみるのが自然であって,これらの事実に照らすと,1審被告高橋らの主張に沿う,1審被告高橋らの上記供述部分は,たやすく採用することができず,1審被告高橋らが,専ら公益を図る目的をもって,本件各ビラの配布等を行ったものと認めることは困難であるというほかはない。
 本件記録を精査しても,本件各ビラの作成,配布等が,専ら公益を図る目的をもって行われたものと認めるに足りる証拠はなく,そうであれば,その余の点について判断するまでもなく,本件各ビラの作成,配布等は,その違法性が阻却され,又は責任が阻却されると解する余地はない。

(3)これに対し,1審被告高橋らは,一定の意見を表明したビラの作成,配布という表現方法は,現代情報化社会の中で一般市民が利用できる表現手段として極めて重要であるから,そこに表現された内容が,個人のプライバシーを不必要に暴き立てたり,人身攻撃を行うものでない限り,その意見表明の自由は保障されるとか,公共の利害に関する事項については,何人といえども,論評の自由を有し,論評が公正である限り,いかにその用語や表現が激烈・辛辣であろうとも,また,その結果として被論評者が社会から受ける評価が低下することがあっても,論評者は名誉毀損の責任を問われることはないなどと主張するが,いずれも独自の見解であって採用することができない。他に1審被告高橋らが縷々主張するところを考慮しても,本件各ビラの配布等の違法性を否定することはできない。



5 本件各ビラの配布等の違法性の程度
(1)以上のとおり,本件各ビラは,1審原告らの名誉を毀損するものであり,その作成,配布等の違法性を阻却する事由を認めることはできないが,1審原告妙観講がオウム真理教等に類する狂信的なカルト教団であり、1審原告大草は,オウム真理教の教祖であった麻原彰晃と同じような人物であるとの意見ないし論評の前提となり,また,1審原告らの社会的評価を低下させる事実として,本件各ビラに具体的に摘示された事実の主要部分がどれほどの根拠を持って摘示されているのかによって,その違法性の程度が相異する余地があるので,以下,この観点から,本件各ビラに摘示された事実の主要部分にどれほどの根拠があるのか,すなわち,どの範囲で真実と認めることができるのか,事実の誇張,歪曲等があるのかどうかなどの点について検討を進める。


(2)本件各ビラが,いずれも,住宅の郵便受けに投函され,電柱等に貼付されるという態様で不特定多数の者の日に触れたことに鑑み,このような態様で本件各ビラを目にする一般の者の読み方を基準として判断すると,1審原告妙観講がオウム真理教等に類する狂信的なカルト教団であり,1審原告大草は,オウム真理教の教祖であった麻原彰晃と同じような人物であるとの意見ないし論評の前提となり,かつ,1審原告らの社会的評価を低下させる事実として,本件ビラ1においては,1審原告妙観講が,@無差別電話による勧誘活動を行っていること,A顕正会との抗争など数々の暴力事件を起こしていること,B盗聴行為を行っていること,C平成13年7月の参議院議員選挙に候補者を擁立したが,数々の違法な選挙運動を行ったこと,D1審原告大草が女性信者と関係を持つなど,1審原告妙観講内には乱れた男女関係があること,以上の事実が摘示されており,また,本件ビラ2には,E1審原告妙観講が,機関紙において2001年9月11日に発生した同時多発テロは阿部日顕を批判した罰である旨を述べ,阿部日顕もイラン地震は日蓮正宗を批判した罰であると発言していること,1審原告妙観講が,F平成13年の参議院議員選挙で独自候補を擁立し,その選挙運動の過程で,虚偽事項公表,証紙譲渡禁止違反,公記号不正使用など数々の選挙違反を行ったこと,G顕正会など他教団との間で暴力抗争を行っていること,H1審原告大草を始めとして,1審原告妙観講内の男女の間には乱れた男女関係が存在していること,I勧誘目的で他教団の女性に執拗な尾行・ストーカー行為を繰り返していること,J無差別に全く面識のない住民に電話を掛けて入信の勧誘を行っていること,Kこれらの活動により地域住民の平穏な生活が脅かされていること,以上の事実が摘示されていると認められることは,上記3(2)及び(3)に認定説示したとおりである。


(3)そこで,以下においては,これらの事実にどれほどの根拠があるのかについて検討を進める。
1審原告妙観講が無差別電話による勧誘を行い,勧誘目的による執拗な尾行・ストーカー行為を行ったとの事実(上記(2)@,I及びJの事実)について証拠(乙ハ46,48,49,81,96,原審証人中尾弘子,同高村芳昌)及び弁論の全趣旨によれば,1審原告妙観講においては,日蓮正宗のみが正しい宗教であり,日蓮正宗以外の宗教を信ずると謗法(仏教の教義に違反すること)を行うこととなり,地獄に堕ちる旨信仰されており,日蓮正宗の信徒が謗法の者に対し,折伏(日蓮正宗の布教)をしなければ,当該信徒自身も地獄に堕ちるとされていること,1審原告大草は,1審原告妙観講の代表者として,講員に対して,折伏を行うことを指導しており,折伏によって日蓮正宗を信仰するに至った者を講員として入講させたため,1審原告妙観講の講員は増加したと公言していること,1審原告大草の妻であり,1審原告妙観講の副講頭である大草晴美(当時・佐藤晴美)は,昭和61年4月13日,1審原告妙観講の第8回総会での報告発表において,折伏の対象者は必ず怒りの心を生ずるものであるが,それにより非難されても折伏をしなければならず,このため,妙観講員が対象者を追いかけてでも折伏し,対象者が交番に逃げ込み,又は駅員に助けを求めるという事態が重なったり,講員がタクシーに乗る度に運転手を折伏し,不動産業者を折伏したりしたため,1審原告妙観講の本部が置かれていた小金井市においては,1審原告妙観講が有名になったと指摘した上,日本全国において1審原告妙観講が有名になるよう折伏を進めるべきであるなどと述べ,1審原告妙観講の講員に対して,上記のような折伏を行うことを慫慂したこと,1審原告妙観講では,1審被告創価学会が日蓮正宗と対立するようになった後,1審被告創価学会の会員に対する折伏を行うことを優先的な課題とするようになり,墓地の卒塔婆や墓碑の裏書から1審被告創価学会の会員の氏名を割り出した上,これを電話帳と照合し,早朝,聖教新聞の配達員を尾行して同新聞を購読している家庭を調査し,上記新聞の投稿及び広告等から投稿者及び広告主の住所等を調査するなどして,1審被告創価学会の会員の名簿を作成し,これによって判明した1審被告創価学会の会員の住居を講員が訪問し,又は判明した電話番号に電話を掛けて折伏を行ったこと,このような中,1審原告妙観講の講員は,1審被告創価学会の会員に対し,1審被告創価学会を信仰すると地獄に堕ちる旨告げるなどして,訪問や電話による折伏を行い,1審被告創価学会の会員が面談を断っても,なお面談を迫ったり,また,1審被告創価学会の会員がその信仰の対象としている本尊の破却を強く迫ったりすることもあったこと,以上の事実が認められる。上記認定事実に照らすと,本件各ビラで摘示された上記(2)@,I及びJの各事実については,概ね真実と認めることができるものの,上記認定事実によれば,1審原告妙観講は,主として1審被告創価学会の会員に対して,執拗な折伏を行っているにもかかわらず(同会員以外の一般市民に対しても広く執拗な折伏が行われていることについては,これを認めるに足りる的確な証拠はない。),上記@及びJの各事実は,電話勧誘が行われた対象について特に限定がされていない点において,事実を誇張している点があることは否定し難い。

1審原告妙観講が,顕正会との抗争などにおける数々の暴力事件を起こしたとの事実(上記(2〉A及びGの事実)について証拠(甲44の1ないし6,甲45の1ないし4,甲46の1ないし4,乙ハ10ないし15,乙チ55,64,163)及び弁論の全趣旨によれば,1審原告妙観講は,昭和63年9月ころから約1年間にわたって,かって日蓮正宗の信徒団体であった顕正会と対立関係にあり,相互に本部等に赴いて教義上の論争を仕掛ける等の挑発行為を応酬し,その際,暴力行為が行われたとして警察官が臨場する事態が生じたこと,顕正会の機関紙である顕正新聞が,1審原告妙観議員が顕正会会員に対し,平成元年1月29日及び同年2月5日に暴行を加えた旨報道したこと,1審原告妙観講が,顕正会との抗争において,講員が負傷したとして,告訴をしたことがあったこと,以上の事実が認められる。上記認定事実によれば,顕正会との抗争において,少なくとも,警察官臨場し,また,その際に刑事告訴をするような事態も生じていること(乙ハ10号証によれば,顕正会の会員のみが一方的に有形力を行使するような事態であったとは認め難い。)に照らすと,上記(2)A及びGの事実についは,概ね真実と認めることができるものの,1審原告妙観講の特定の講員が暴行,傷害等を行ったとの具体的な事実を認めるに足りる的確な証拠はないことや,「血塗られた」などの表現をもって,顕正会との抗争を形容している点において,事実を誇張している点があることは否定し難い。

1審原告妙観講が盗聴行為を行ったとの事実(上記(2)Bの事実)について証拠(甲127ないし13.3,乙チ2ないし5,15,20ないし24,33,乙チ34の1ないし5,乙チ35ないし43,4’5ないし47,56ないし59)によれば,1審原告妙観講の幹部であった渡邉茂夫(以下「渡邉」という)が,帝国リサーチに対し,平成元年1月から2月にかけて,顕正会幹部宅の電話について,平成3年5月10日から同月17日にかけて,創価学会の会員である波田地克利(以下「波田地」という)の自宅の電話について,同年11月2日から同月21日にかけて,日蓮正宗の渉外部長であった秋元広学が住職を務める宣徳寺の電話について,同同月12日から同年12月30日にかけて,梅澤十四夫(以下「梅澤」という)の自宅及びその離婚した妻が経営する居酒屋の電話について,各盗聴をするよう依頼したこと,上記依頼に基づいて,帝国リサーチが顕正会幹部宅,波田地の自宅,宣徳寺,梅澤の自宅及びその離婚した妻が経営する居酒屋の電話の盗聴を行ったことが認められるものの,上記の各盗聴が1審原告大草の指示の下に行われたなど,1審原告妙観講がこれに関与していたと認めるに足りる証拠はなく,少なくとも,波田地の自宅及び梅澤の自宅及びその離婚した妻が経営する居酒屋の電話の盗聴に関しては,これが1審原告大草の指示又は1審原告大草との共謀の下に行われたことを主張して,平成11年及び同9年に提起された波田地及び梅澤の各損害賠償請求事件においては,それぞれ,平成15年9月12日及び平成16年4月8日,その請求を棄却する判決が確定している(甲127ないし133)。
 上記認定事実によれば,1審原告妙観講の幹部であった渡邉の依頼によって,上記各盗聴がされた事実があり,かつ,本件ビラ1が配布された当時,1審原告大草の指示又は1審原告大草との共謀によって行われたとして被害者である波田地及び梅澤との間で係争となっていたのであるから,上記(2)Bの事実については,その電話盗聴に1審原告妙観講の関与が疑われたという限りでは,これを認めることができるものの,1審原告妙観講が盗聴に関与したことを認めるに足りる的確な証拠はない中で,結局上記事実については,関係当事者間で係争中の事柄について,一方当事者である被害者の主張に依拠した事実を摘示した結果となっているものということができる

1審原告妙観講が平成13年7月の参議院議員選挙において数々の選挙違反を行ったとの事実(上記(2)C及びFの事実)について証拠(乙ハ26ないし31,60,61)及び弁論の全趣旨によれば,平成13年7月29日,第19回参議院議員通常選挙が実施され,上記選挙に,「新党・自由と希望」から,いずれも1審原告妙観講の講員である庄野寿(以下「庄野」という)及び児玉かがり(以下「児玉」という)が比例区の候補者として立候補し,1審原告妙観講が,組織を挙げて上記両名の選挙運動を支援したこと,上記選挙の際,庄野の選挙運動用ビラに,中央選挙管理委員会が児玉に対して交付した選挙運動用ビラの証紙が貼付され,配布されたこと,公明党大阪府本部等が,両名が共謀の上,児玉に配布された上記証紙を譲渡し,これを貼付した庄野の選挙運動用ビラを配布したとして,庄野及び児玉を公記号不正使用罪,公職選挙法違反(証紙譲渡禁止違反及び文書頒布違反)で告発したこと,公明党本部が,同月23日,庄野の選挙運動用ビラに「創価学会の教義を実現するために作られた公明党」などの虚偽の内容を記載したなどとして,庄野を公職選挙法違反(虚偽事項公表)で告発したこと,公明党の機関紙である「公明新聞」は,上記の各告発がされた事実を繰り返し報じたこと,以上の事実が認められる。上記認定事実によれば,1審原告妙観講がその選挙運動を組織として支援していた庄野及び児玉の選挙運動において,庄野の選挙運動用ビラに,中央選挙管理委員会が児玉に交付した選挙運動用ビラの証紙が貼付され,配布されるという公職選挙法違反の行為が行われた事実は認められるものの,本件記録を精査しても,上記の違反行為に1審原告妙観講が組織的に関与していた事実や,上記の違反行為以外にも告発されたような違反行為があったとの事実を認めるに足りる的確な証拠は全くない。上記(2)C及びFの事実については,1審原告妙観講がその選挙運動を支援していた庄野及び児玉の選挙運動において,上記の違反行為が行われたにすぎないにもかかわらず,1審原告妙観講が,組織的に「数々の違法な選挙運動」,「虚偽事項公表,証紙譲渡禁止違反,公記号不正使用などなど,数々の選挙違反」を行った旨の印象を与えう点で,著しく事実を歪曲し,誇張するものというほかはない。

1審原告大草が女性信者と肉体関係を持つなど,1審原告妙観講内には乱れた男女関係があるとの事実(上記(2)D及びHの事実)について証拠(甲182,183,乙ハ23,24,56,57)及び弁論の全趣旨によれば,1審原告妙観講の女性講員が1審原告大草と肉体関係があったことを自ら告白する内容の「J子の日記」なる文書がインターネット上で流布されていること,上記の「J子の日記」が,日蓮正宗自由通信同盟を称する者が発行する「地涌からの通信29」(平成6年6月発行)に取り上げられたこと,宗教機関紙研究会「勝ち鬨」の発行する機関紙「勝ち鬨」(平成8年3月発行)に,女性講員から1審原告大草との夫婦同然の関係を告白されたとの,「J子の日記」を裏付けるような内容を記載した別の女性講員「旧姓Oさん」の手記なる文書が固有名詞部分を黒塗りして掲載されるなどしたこと,これに対して,1審原告妙観講がその編集に関与している「慧妙」において,上記の文書につき,当の「旧姓Oさん」は,自分は書いていない,でっち上げだと主張していると報じ,さらに,班長だった「旧姓Oさん」が,とんでもないことを言っている人がいるとして部長「W」に渡した文書であるなどと反論したこと,上記の「W」は,その後1審原告妙観講を除名された渡邉であること,以上の事実が認められる。上記認定事実によれば,1審原告大草と肉体関係を持っていたことを告白する1審原告妙観講の講員であった者が作成したとされる「J子の日記」なる文書やこれを裏付けるような「旧姓Oさん」の手記なる文書があるが,その作成者を含めた作成経緯やその内容の真偽については,1審原告妙観講を除名され,1審原告妙観講と対立関係にあることが明らかな渡邉も関係して,上記のように関係者の間で争われていたことが明らかであり,本件記録を精査しても,1審原告大草が性信者と肉体関係を持っていると断定するに足りる的確な証拠はない。それにもかかわらず,1審原告大草が女性信者と肉体関係を持った旨を断定するだけでなく,1審原告妙観講内の男女関係が「乱れきっている」と述べるなど,上記(2)D及びHの事実については,確たる根拠もないのに,著しく誇張した事実を摘示したものというほかはない。

同時多発テロ及びイラン地震に関する発言(上記(2)Eの事実)について証拠(乙ハ5,7,乙チ160ないし162,173,176)及び弁論の全趣旨によれば,「慧妙」は,慧妙編集室が編集及び発行している新聞であるが,平成5年1月,1審原告妙観講の機関紙であった「妙観」及びその他の日蓮正宗系の新聞を継承して発刊されたものであり,1審原告妙観講の指導教師である小川只道がその監修責任者を務めるなど,1審原告妙観講もその編集に参加していたこと,平成13年10月1日付けの「慧妙」には,「諸天の瞋りを畏るべし!」との大見出し及び「その予兆を甘く見てはならない」,「大謗法と政権が結託する事態 正法への圧迫が三災七難招く」,「警察や司法にも学会の影響が『諸天の力及ばぬ時』とは今」,「米国テロは世界戦争の兆し強盛な信行で諸天の加護を」との見出しを設け,日蓮の言葉を引用した上で,その意味するところを解説するものとして,要旨,@ある時点で,国中に邪宗謗法の輩が充満する,Aそれら邪宗と時の国家権力とが結託する,Bその強大な力を背景に,正法正師に対し,言論・暴力による攻撃や,罪なき罪に陥れる等の圧迫を加えてくる,Cこれを諸天善神が治罰しようとして,その国土には,いよいよ三災七難が頻発する,Dそれでも,邪宗と国家権力の結託が揺るぐことなく,諸天の力が及ばない事態となる,Eその時に,この国土以外の国土に具わる強大な諸天の力が発動し,この国を巻き込む他国侵逼難―前代未聞の大闘諍が,世界規模で起こるということになるとの趣旨を記述した上,平成3年以降,1審被告創価学会が日蓮正宗に反逆し,大謗法の団体になったことで上記@の事態となり,公明党が連立政権に参加したため,1審被告創価学会と国家権力が結びつき,上記Aの事態となり,1審被告創価学会の会員による反対勢力への攻撃を警察が取り締まらなくなり,司法も日蓮正宗に不利な判決を下すなど上記Bの事態となり,これを諸天善神が罰しようとして日本の国土に三災七難が盛んに発生し,上記Cの事態となり,それでも1審被告創価学会の謗法が改まらず,公明党が政権与党であり続けており,現在は上記Dの事態であり,したがって,上記Eの事態が現実のものとなると考えられるとの説明を加え,さらに,マスコミが平成13年9月11日の同時多発テロは世界戦争の前触れであるなどと報道していること,上記テロが上記Eの事態の兆しでないことを祈るばかりであるが,「いずれにしても,大謗法の国土となった日本に,一国総罰の現証は必ず現われるし,謗法の創価学会員は,その治罰を心から畏(おそ)れるべきである。」と述べていること,平成16年1月1日,阿部日顕は,日蓮正宗総本山の元旦勤行において「近年においても,我が国においては,あの普賢岳の障火,あるいは阪神・淡路大震災等の大惨事がありましたけれども,このような姿も子細に検すれば,邪悪な団体による様々な誹謗の姿がその大きな原因をなしておるということが考えられるのであります。つい最近もイランの国において,6日ほど前に大きな地震があり,約5万の人が亡くなったということも報道されておるようであります。このような様々な世界の悪業の姿が,法華経を境として起こっておるということを我々は考えなければならないと思うのであります。」と述べたこと,以上の事実が認められる。上記認定事実によれば,上記(2)Eの事実は,「慧妙」の上記の記事や阿部日顕の発言に照らすと,これらを要約し,摘示したとものとみることもできないわけではないものの,上記の記事や発言が,日蓮正宗の教義を前提とするものであることを考慮すると,その言わんとするところ,論旨は分かりにくいにしても,その意図するところをかなり曲解しているものといわざるを得ない。

1審原告妙観講の活動により,地域住民の平穏な生活が脅かされているとの事実(上記(2)Kの事実)についてこれまで認定してきたように,1審原告妙観講関係者の1審被告創価学会会員に対する過激ともいうべき折伏等の活動によって,一部の創価学会会員の平穏な生活が脅かされているとみる余地はあるとしても,本件記録を精査しても,これを超えて,1審原告妙観講の活動により,一般の地域住民の平穏な生活が脅かされていることを具体的に示す事実を認めるに足りる的確な証拠はない。


(4)上記(3)アないしキに認定説示したところによれば,1審原告妙観講がオウム真理数等に類する狂信的なカルト教団であり,1審原告大草は,オウム真理教の教祖であった麻原彰晃と同じような人物であるとの意見ないし論評の前提となり,また,1審原告らの社会的評価を低下させる事実として,本件各ビラにおいて摘示された事実については,概ね真実と認めることができる部分もあるものの,事実を誇張したり,歪曲している点があることは否定できず,また,概ね真実と認めることができる事実のみを前提とした場合,1審原告妙観講がオウム真理教等に類する狂信的なカルト教団であり,1審原告大草は,オウム真理教の教祖であった麻原彰晃と同じような人物であるとする意見ないし論評は,合理的な根拠を持つものとは評価することはできず,上記意見ないし論評は,事実の基礎を欠く,人身攻撃に当たる意見ないし論評とみる余地すらあるといえる。なお,1審被告高橋は,上記(2)@ないしKの各事実を真実と信ずるについて相当な理由がある旨を縷々主張し,乙ハ102号証及び乙チ181号証並びに原審における1審被告高橋本人の供述中には,上記主張に沿う部分があるものの,上記(3)に認定説示したところに照らすならば,1審被告高橋が縷々主張するところを考慮しても,本件各ビラにおいて摘示された事実に誇張ないし歪曲された点があることを1審被告高橋において認識することができなかったとはいえず,また,1審被告高橋が上記のような意見ないし論評を行ったことを相当とみることはできない。



6 1審原告らの損害額
 1審被告高橋が本件各ビラの作成,配布等に関与したことは,同1審被告との間において争いがなく,また,1審被告佐渡及び同山本が本件ビラ2の配布にそれぞれ関与したことは,上記各吋審被告との間でそれぞれ争いがないところ,本件各ビラは,1審原告らの社会的評価を低下させ,その名誉を毀損するものであって,これらが専ら公益を図る目的をもって配布等されたとは認め難いところ,上記5に認定説示したように,1審原告妙観講がオウム真理教等に類する狂信的なカルト教団であり,1審原告大草は,オウム真理教の教祖であった麻原彰晃と同じような人物であるとの意見ないし論評の前提となり,また,1審原告らの社会的評価を低下させる事実として,本件各ビラにおいて摘示された事実については,概ね真実と認めることができる部分もあるものの,事実を誇張したり,歪曲している点があることは否定できないことや,これらが配布された枚数,配布された地域など本件記録に現われた諸般の事情を総合考慮すると,本件各ビラの配布によって1審原告らがそれぞれ受けた精神的苦痛を慰謝するのに相当な慰謝料の額は,本件ビラ1及び本件ビラ2のそれぞれについて,各70万円と認めるのが相当であって,1審被告高橋らは,それぞれが,その作成,配布等に関与したことにつき,上記のとおりそれぞれ争いがない本件各ビラ(1審被告高橋につき本件ビラ1及び本件ビラ2,1審被告佐渡及び同山本につき本件ビラ2)に関し,連帯して,上記金額を賠償すべきである。
 この点につき,1審被告佐渡及び1審被告山本は,同1審被告らは,ごく少ない枚数の本件ビラ2の配布に関与したにとどまり,同1審被告らに,上記金額の賠償を命ずることは不相当である旨を主張する。上記の主張は,本件ビラ2の作成,配布等は,1審被告高橋が個人的に企画し,実行したものであって,1審被告佐渡及び1審被告山本は,これにわずかな協力をしたにすぎないものであることを前提とするものであるが,本件ビラ2の作成,配布等を1審被告高橋が個人的に企画し,実行したものとみることはできず,本件各ビラの作成,配布等については,1審被告創価学会のいずれかの組織を構成する相当多数の学会員がその意思を通じて,関与をしていたものと推認することができることは前記2に認定説示したとおりである。そうであれば,本件各ビラの作成,配布等は,これに関与したことが認められる者の共同不法行為を構成するものと認めるのが相当であって,1審被告佐渡及び1審被告山本の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。



7 以上によれば,原判決は結論において相当であり,本件控訴はいずれも理由がないから,これを棄却する。


東京高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官 小林克已
裁判官 綿引万里子
裁判官 中村愼

これは正本である。
平成20年2月13日
東京高等裁判所第5民事部
裁判所書記官 吉野邦央

------------------------------------------------------------
参考資料

主文

甲事件被告佐渡正浩,甲事件被告山本伸一及び乙事件被告高橋浩一は,甲及び乙事件原告妙観講に対し,連帯して金70万円及びこれに対する甲事件被告佐渡正浩及び甲事件被告山本伸一はそれぞれ平成16年8月20日から,乙事件被告高橋浩一は平成17年2月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

甲事件被告佐渡正浩,甲事件被告山本伸一及び乙事件被告高橋浩一は,甲及び乙事件原告大草一男に対し,連帯して金70万円及びこれに対する甲事件被告佐渡正浩及び甲事件被告山本伸一はそれぞれ平成16年8月20日から,乙事件被告高橋浩一は平成17年2月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

乙事件被告高橋浩一は,甲及び乙事件原告妙観講に対し,金70万円及びこれに対する平成13年10月1日から支払済み まで年5分の割合による金員を支払え。

乙事件被告高橋浩一は,甲及び乙事件原告大草一男に対し,金70万円及びこれに対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

甲及び乙事件原告らの甲事件被告佐渡正浩,甲事件被告山本伸一及び乙事件被告高橋浩一に対するその余の請求及び甲及び乙事件被告創価学会,甲事件被告菊地哲哉及び甲事件被告山本欣嗣に対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は,甲事件及び乙事件を通じ,これを20分し,その1を乙事件被告高橋浩一,甲事件被告佐渡正浩及び甲事件被告山本伸一の負担とし,その余を甲及び乙事件原告らの負担とする。

この判決は,第1ないし第4項に限り,仮に執行することができる。


※下記サイトから転載させていただきました。
http://dakkai.org/myokankovictory.html
<創価学会からの脱会を考える会>WS080304