集団的自衛権 公明の容認方針 理屈の通らない変節だ

(『北海道新聞』H26.6.29)


 見苦しい変節と言うほかない。
 公明党が集団的自衛権の行使容認へ方針転換した。「解釈改憲反対」の主張は取り下げる。
 安倍晋三政権のブレーキ役を任じてきたが、単なる政治的パフォーマンスだったのか。政府・自民党の言うがままに譲歩した。
 自衛隊が戦争に参加する道を開く作業に加担している。もはや「平和の党」とは呼べない
 連立政権に残ることを優先し、つじつま合わせを重ねた結果だ。信頼回復は到底おぼつかないと覚悟すべきである。
 理解できないのは山口那津男代表の説明だ。「個別的自衛権に匹敵するような集団的自衛権」であれば許される余地があるという。
 いかにも苦し紛れだ。2つの「自衛権」には、自国が攻撃されているか否かという明確な一線がある。山口氏は「これまでの憲法9条の規範性は全く変わらない」と主張するが、無理がある。
 山口氏は昨年の参院選で集団的自衛権には「断固反対」と明言した。今年4月には解釈改憲を「憲法の精神にもとる」と批判した。
 「国民の理解が不可欠」と言ってきた山口氏は、あからさまな前言撤回をどう説明するのか。
 集団的自衛権行使の8事例には「現実味があるのか」と否定的だった。公明党が軟化したことで、政府・自民党は8事例すべてに対応できると解釈する構えだ。
 中東海域での機雷除去など、公明党が猛反対した集団安全保障による武力行使も、閣議決定はしないものの、国会答弁で認めようとする政府の動きが判明した。
 政府・自民党を勢いづかせてしまった。山口氏は集団的自衛権行使の要件を狭めたことで「歯止めが利いている」と言いたいようだが、実態は逆ではないか。
 党内も穏やかではない。きのう開かれた地方組織幹部への説明会では、出席者から懸念や慎重論が相次いだ。理念なき方針転換には党員も納得できまい。
 連立離脱を排除したのは、政権の中から福祉政策などの実現を目指す方が得策と考えたのだろう。
 だが、結果的に政府・自民党に足元を見られた。今後与党内で存在感を発揮しようにも、押し切られてしまうのは目に見えている。
 来月1日には自公両党が正式合意し、閣議決定を行う日程が有力だ。その前にもう1度立ち止まって考え直すべきだ。