自公政権10年の総決算

―こんな日本に誰がした?−
(ジャーナリスト・松田光世『週刊朝日』H21.8.21)

 政権選択の夏と言われるが、それは10年続いた「自公連立政権」の"実績"に国民が評価を下すチャンスでもある。この10年で日本はどう変わったのか?経済、財政の客観的な指標をもとに「自公政権10年」を検証してみると、政府与党が喧伝する「おいしい話」とはかけ離れた実態が見えてくる。
 1999年10月5日。政権の安定を目指した小渕恵三首相の要請に応えて、公明党が自民党、自由党と連立を組み、「自自公連立」政権がスタートした。その後、「自公保」政権の時代を経て、自公両党は麻生首相までの6人の歴代首相を10年近く支えてきた。
 単独では衆参両院の過半数を維持できなくなった自民党を公明党が補完してきた自公連立政権は、今回の総選挙で有権者が「政権交代」を選択すれば、その歴史的役割を終える。公明党幹部がそろって「連立野党はない」と、敗北の場合は自民党との関係を白紙に戻すと表明しているからだ。
 歴史的な意味を持つ総選挙を前に、自公連立の10年間でこの国の経済や財政は良くなったのだろうか。

【株価】
 まずは景気の指標である株価。8月7日の日経平均株価終値は、1万412円9銭。自自公政権がスタートした日の株価が、1万7,784円15銭だから41.4%のマイナスだ。
 東京証券取引所の時価総額は、99年10月末は411兆5千億円だったものが、今年7月末は、公明党の連立参加後にスタートしたマザーズ市場を加えたとしても、317兆524億円に減少した。自公連立10年で時価総額94兆円以上が吹っ飛んだことになる。
 「経世済民」を掲げた竹下登元首相は、
 「平均株価は政権に対する市場の評価だ」
として、首相在任中毎日日経平均株価の午前と午後の終値を秘書官に報告させていたという。これにならえば、自公両党の国家運営は、"経営者失格"の烙印(らくいん)を市場から押されたことになるだろう。

【財政】
―GDP伸ばせず借金はし放題−
 次に財政を見てみよう。
 自自公連立後の99年11月に第2次補正を組んだ後の予算は、国の借金である公債金が当時過去最高の38兆6,160億円を記録し、放漫財政の批判を浴びた。
 その後、小泉政権で財政健全化に取り組んだものの、歯止めとした「国債30兆円枠」について国会で、小泉純一郎首相自身が、
 「この程度の公約が守れなくても大したことはない」
と発言して以降は、再び公債依存度は上昇する一方となってしまった。
 麻生政権では、世界金融危機への対応を名目に今年度補正予算後の公債金は、過去最高の44兆1,130億円にまで膨らんだ。空前の102兆円余の一般会計歳出の45%しか税収で賄えず、借金と埋蔵金に頼るしかなくなっている。その自公両党が、民主党のマニフェストの財源を批判するのは、天にツバする行為だろう。
 99年度末で600兆円だった国と地方の長期債務残高は、09年度末には816兆円に達する。10年で216兆円借金が増えた計算だ。国内総生産(GDP)比で168%もの巨額の借金を抱えているのは、先進国ではワースト1だ。しかし、財務省0Bは実態をこう指摘する。
 「実はこれだけじゃない。国は独立行政法人化で債務を法人に押しつけて切り離し、借金を飛ばしている。外郭団体を加えれば国と地方の借金の総額はゆうに1,200兆円を超えるはず」
 それだけの財政赤字を抱えて、経済がよくなつたかというと、麻生内閣が誕生してからの6ヵ月を含む08年度の名目GDP(速報値)は497兆4,221億円で、00年度に比べて日本経済は6兆6,967億円のマイナス成長に。企業でいえば、自公政権の決算(財政収支)は毎年大赤字で、売り上げ(名目GDP)も減少しているのだから、完全に経営破綻状態だ。
 「自公政権10年」は、バブル崩壊後の10年に続く、もう1つの「失われた10年」だったのではないか。

【雇用】
 一方で、「年越し派遣村」などで注目を集めたのが雇用問題だ。今年6月の完全失業率は5.4%で、過去最悪に迫る水準になった。  有効求人倍率は0.43倍で過去最悪を2ヵ月連続で更新した。企業が利益などから人件費に回した割合を示す労働分配率は、9年連続で低下している。
 雇用情勢が最悪の水準にもかかわらず、日雇い派遣の禁止などを盛り込んだ労働者派遣法改正案は与野党の対立で審議が進まず、衆院解散で廃案になってしまった。

【平均可処分所得】
 自民党は「10年で平均可処分所得100万円増」という目標をマニフェストの目玉に掲げる。では自公政権の実績はどうか。
 00年から08年までの9年間で勤労者世帯の平均可処分所得は、31万6,872円のマイナス。10年目の今年は、夏のボーナスが2ケタマイナスの見込みで、これまたサラリーマンの可処分所得は減る一方だ。
 自民党に可処分所得が増えるとする根拠を聞くと、
 「来年から経済成長率2%を10年続け、それが可処分所得の伸びにつながるとすると、100万円増える」
と政調の担当者。単なる仮定計算で労働分配率などは考えてもいないし、最低賃金の底上げの目標もない。

 衆院解散後、麻生首相は遊説で、
 「成長戦略のない政党には政権を任せられない」
という演説を繰り返している。
 しかし、10年前より名目GDPをマイナス成長にした自公両党には、どんな成長戦略があったのか?子育て支援を「成長戦略」に掲げながら民主党の10分の1しか投資しない自民党は、それで十分と考えるのか?
 麻生首相の「政権担当能力を政権選択の基準に」という発言は、この10年かけてマイナス成長しか実現できなかった自公両党にこそ重くのしかかるのではないか。
 「戦う前に負けを前提にしたことが答えられますか。選挙はこれからやるんです」
 7月21日、衆院解散後の記者会見で、選挙の勝敗ラインを聞かれた麻生首相は珍しく不快感を露(あらわ)にして気色ばんだ。
 それを聞いた民主党の小沢一郎代表代行は笑ってこう側近に言ったという。
 「自民党はすでに詰んでいる」
 衆院解散で麻生政権は、衆院3分の2の勢力を失い、選挙管理内閣になった。「自公政権10年」の総決算の時が近づいている。


▲自公政権10年で日本はどうなった?
*東証時価総額は、99年10月末は東証1,2部の合計。09年7月末は東証1,2部・マサーズの合計
*99年度の財政赤字は2次補正後の公債金収入額。09年度は補正後の見通し
*年間可処分所得は、総務省の家計調査による勤労者世帯の月平均額×12ヵ月

まつだ・みつよ=1961年、三重県生まれ。早稲田大学卒業後、84年に日本経済新聞社入社。政治部で首相官邸、自民党、経済部で日銀などを担当し、94年に退職。菅直人・衆院議員の政策担当秘書を経て、フリージャーナリストとして活動。共著に『銀行が倒産する日』(日本経済新聞社)など



続・自公政権10年の総決算

―所得格差、生活保護、雇用……―
(『週刊朝日』H21.8.28)

 「民主党との一番の違いは責任力。経済を成長させたうえで、分配を考える。自民党にはそれを実現する力がある」
 8月12日に行われた民主党の鳩山由紀夫代表(62)との党首討論で、自民党の麻生太郎首相(68)は、そう大見えを切ってみせた。
 何をか言わんや、いったいどこの政党が、この国の閉塞状況を作り出したというのか。自公連立政権が続いたこの10年で、庶民の生活がどれだけ疲弊したのか、銀の匙をくわえて生まれてきた麻生氏にはまったくわかっていないようだ。
 たとえば、賃金や企業が払う社会保険料の総額である「名目雇用者報酬」は、自公連立が始まった1999年度の269兆6,260億円から08年度は264兆2,430億円となり、5兆3,830億円も減っている。
 では、その間の名目GDPはどうだったか。99年度の499兆5,442億円に対し、08年度はマイナス2兆1,221億円の497兆4,221億円。つまり、GDPの減少額以上の負担を賃金労働者に押しつけて、肝心の日本経済の舵取りに大失敗しているのである。
 当然のごとく1世帯あたりの年間平均所得も626万円(99年)から556万2千円(07年)に激減した。しかも、平均所得を下回る世帯が6割にのぼり、200万円未満の世帯が18.5%に達するなど、所得格差が浮き彫りになっている。
 収入減は、虎の子の貯蓄にも響く。可処分所得からどれだけ貯蓄に回したかを示す家計貯蓄率は、10%(99年)から3.3%(07年)と、3分の1に縮小した。
 この間、全世帯の貯蓄残高も減っており、貯金を取り崩して生活を維持する高齢者と、貯蓄にまで手が回らない若年層の痛ましい姿が浮かび上がってくるのだ。
 また、雇用環境も悪化した。役員を除く雇用者のうち正規の職員、従業員が占める正規雇用率は75.1%(99年)から66%(08年)に減少。一方で、生活保護受給世帯数は75万1,303世帯(00年度)から過去最多の120万3,874世帯(今年4月)へと急増した。
 98年に初めて3万人台を突破した自殺者数が03年に過去最多の3万4,427人を記録し、今なお3万人台の高止まりを続けているのもうなずけよう。
 経済アナリストの森永卓郎氏はこう苦言を呈する。
 「自公政権の10年とは、労働が価値を生むのではなく、資本家こそが付加価値の創造主だとする新自由主義路線を走り続けた10年でした。ですから、配当、役員報酬、内部留保を大幅に増やして、雇用者報酬は意図的に減らしたのですね。麻生さんは『行きすぎた市場原理主義から決別する』と解散の会見でおっしゃいましたが、それが間違いだったというなら、まずその反省からしていただきたい」
 「日本を守る、責任力。」とは、自民党マニフェストのキャッチフレーズだが、笑止千万。福祉政党を自認する公明党も、その片棒を担いでいたことこそ自認すべきだ。政権政党としてまさに「まずは反省から」してほしいものだ。


▲自公政権10年で日本はどうなった?
内閣府経済財政白書、厚労省国民生活基礎調査、厚労省労働経済白書、厚労省賃金構造基本統計調査、警察庁発表資料などから


※途中のタイトルは法蔵で編集