公明党は足を引っ張るな

―安倍政権の憲法改正方針に「嫌み」―
(『産経新聞』H25.4.11 12時2分配信)

 北朝鮮がいつ弾道ミサイルを発射するか分からず、国民の不安と緊張が高まる中で、安倍晋三首相が小泉純一郎内閣の官房副長官だった約10年前のあるエピソードを思い出した。首相が官邸内で日本の安全保障上の課題と懸念事項について議論しようとしたところ、先輩議員がこう言って話を打ち切ったという。
 「そういう話をしたら、そんな事態が本当に起きてしまうじゃないか」
 砂に頭を突っ込んで、身に迫る危険を見ないようにして安心する「ダチョウの平和」(自民党の石破茂幹事長)の典型例だろう。
 その後、日本を取り巻く国際環境は格段に厳しさを増した。自民党は当時に比べ現実を直視し、「今そこにある危機」(首相)と向き合うようになっている。
 ところが、十年一日の如く変わらないのが与党・公明党だ。山口那津男代表は9日の記者会見で、安倍政権が目指す憲法改正についてこう述べた。
 「間もない選挙(次期参院選)の争点になるほど熟した議論になっていない。有権者の率直な感じは、自分たちの生活や仕事にかかわる政策課題について聞きたいということだろう」
 「平和の党」を自任する公明党らしいが、ピント外れだ。憲法改正については自民党のほか、日本維新の会もみんなの党も新党改革も掲げている。
 参院選の結果と公明党の対応次第では、衆参両院で憲法改正の発議に必要な3分の2以上の議席が改憲勢力で占められる可能性は十分ある。これほど憲法改正の機運が高まったことは記憶にない。今こそ率直に憲法を論じ、国民に問いかけずにどうするのか。
 安倍首相は当面、公明党が嫌がる憲法9条などには触れず、改正発議要件を現行の3分の2から2分の1に引き下げる96条改正に的を絞っている。その理由についてはこう語っている。
 「例えば国民の70%が憲法を変えたいと思っていたとしても、3分の1ちょっとを超える国会議員が反対すれば指一本触れることができないというのはおかしいだろう」(2月8日の衆院予算委員会)
 つまり、戦後ずっと国民から遠くかけ離れた存在だった憲法を、国民自身の手に取り戻そうという話だ。にもかかわらず、山口氏は、安倍政権による憲法改正方針についてこんな嫌みすら述べている。
 「順風満帆だからといっておごり高ぶってはいけない」(3月17日の自民党大会でのあいさつ)
 「内閣支持率が高いからといって、短兵急に進めようとするとつまずく」(3月18日の講演)
 それどころか、山口氏は党内から「96条だけであれば改正していい」(漆原良夫国対委員長)と前向きな声が出ると、発言を控えるよう求めることもした。
 このほか公明党は安倍首相が意欲を示す集団的自衛権にかかわる政府解釈見直しにも、自衛隊を国際基準に合わせて国防軍とすることにも反対している。アルジェリア人質事件の反省を反映した在外邦人保護・救出のための自衛隊法改正に関し、自衛隊の武器使用基準の緩和も否定した。
 過去には、自民党が検討した敵国のミサイル基地をたたくための長距離誘導技術研究も取りやめさせた。日本は今も、北朝鮮が弾道ミサイルを日本に向けてセットしたとしても事実上、手も足も出ないままだ。
 結局、「平和の党」が与党としてやってきたこととは国際情勢に目をつむる「ダチョウの平和」の死守だ。本来、責任を持って守るべき国民の生命・財産をかえって危険にさらしてきただけではないかとすら思える。(政治部編集委員 阿比留瑠比)