年金財政の新試算、不安点浮き彫り、野党「抜本見直しを」

(<産経ニュース>H21.5.30)

 厚生労働省が26日にまとめた公的年金の財政検証の給付額に関する新たな試算が波紋を広げている。試算では、受給額の世代間格差が前回5年前の試算と比べて広がり、現行制度が抱える不安要素が浮き彫りとなった。政府.与党は「現行制度は揺らいでいない」と強調しているが、次期衆院選を控え、民主党は「制度崩壊が裏付けられた」との主張を強め、新たな争点に据える構え。防戦に回る与党内からも制度への不信の声が高まっている。(桑原雄尚)
 「厚労省はちゃんと説明をしないで、数字をポンと出すだけ。だから、野党から突っ込まれる」
 29日に自民党本部で開かれた厚労関係議員の幹部会で、厚労省への不満が続出した。試算が公表されて以降、党内に「衆院選に影響が出かねない」との声が出ていたのを受けて幹部会は急遽(きゆうきよ)、設定された。
 26日の試算は、世代別の給付負担倍率や世帯構成別の年金水準などを、現時点での経済見通しに基づき計算した。
 厚生年金受給額を世代別にみると、モデル世帯(夫は40年間加入、妻が専業主婦)の場合、来年70歳になる世帯では、約900万円の保険料支払いに対し、6.5倍の約5600万円を受け取れる。しかし、来年30歳となる世帯では、約3000万円に対し、約7000万円で、2.3倍にとどまり、後の世代ほど支払った保険料に対する年金受給額の倍率が低下する。
 また、現役世代の平均手取り月収に比べ、年金受給世帯がどの程度の厚生年金を受け取れるかを示す所得代替率をみると、平成62(2050)年時点で、モデル世帯が50.1%なのに対し、40年間共働きの世帯は39.9%、単身男性が36.7%、単身女性が45.0%となった。
 厚労省は試算について、「大まかな傾向は5年前と変わっていない」としており、基礎年金を全額税でまかなう「税方式」への転換といった制度の抜本見直しは行わない方針だ。
 ただ、野党は現行制度の信頼性に対し批判を強めている。26日の参院予算委では、民主党の蓮(れん)舫(ほう)氏が「世代間格差が広がり、働き方でも年金額に格差が出ている。もはや制度を見直すべきときに来ているのではないか」と政府側を追及した。
 一昨年の参院選で民主党躍進の一因となった年金記録問題が膠着(こうちやく)化している中で、民主党は政府・与党に対する有力な攻撃材料を得た格好だ。
 平成16年の年金制度改革では、若年世代の保険料負担が過重にならないよう保険料額に上限を設定するなどしたが、厚労省幹部は「年金額の抑制ばかりに注目が集まっている」と説明する。
 与党内でも現行制度への不信感は高まっており、自民党の厚労関係の幹部議員は制度の利点を強調する支持者向け説明資料を作成することで合意した。ただ「年金は、制度の仕組みが複雑で、支持者の不信感を払拭(ふつしよく)するのは相当難しい」(中堅)との見方も出ている。


▲世帯別の保険料負担額と年金受給額


年金 現役の50% 最初だけ

―完全に崩れた「百年安心」―
―共産党 当初からごまかし批判―

(『しんぶん赤旗』H21.5.31)

厚生労働省が26日公表した、5年に1度の年金財政検証にかかわる資料で、2004年の年金改悪の際に政府・与党が掲げた「百年安心」という看板が完全に崩れていることが、改めて明らかになりました。(坂井希)

 04年改悪を強行した自民・公明両党は、“現役世代の賃金の50%は保障する”と大宣伝してきました。
 ところが“50%保障”は夫が40年間会社員、妻が専業主婦のいわゆる「モデル世帯」だけで、共働き世帯や男子単身世帯などでは初めから50%を割り込むことが、今回の年金財政検証の資料でも裏付けられました。
 さらに、モデル世帯でも、「50%」は年金受け取りの最初だけで、給付水準は年をとるごとに低下し、4割台に落ち込むことがはっきりしました。
 資料によると、ことし65歳のモデル世帯夫婦が受け取る年金は、月22万3千円です。現役男子の平均手取り賃金(35万8千円)に対する割合(所得代替率)は62.3%です。
 ところが、10年後の75歳時点では、現役世代の名目手取り賃金が9万円増えて44万8千円になるのに、年金額は月23万2千円と、9千円増えるだけ。所得代替率は51.7%に低下します。80歳以降になると4割台にまで下がります。(グラフ)
 今後年金を受け取るどの世代も、所得代替率の“50%保障”は最初だけで、軒並み4割台となるのです。

【2度の改悪】
 以前は、年金は物価や賃金の上昇に合わせ、給付額が引き上げられました。年金生活者の生活水準が落ちないよう年金の実質価値を維持するための優れた仕組みでした。しかし、1999年度に自民、自由(当時)、公明の3党が賃金スライドを凍結。現役世代の賃金水準が上がっても年金額に反映しない仕組みに改悪しました。
 さらに04年改悪では「マクロ経済スライド」が導入されました。これは、少子化による年金加入者の減少率と平均余命の伸び率を「調整率」と称し、賃金や物価が上昇しても、この調整率(2025年度までの平均で0.9%)を差し引いた残りの率しか年金額を引き上げない仕掛けです。仮に物価が1%上昇しても年金額の上乗せは0.1%にとどめられ、年金の実質価値は年々下がることになります。
 一方、04年改悪により、年金保険料は2017年度まで毎年上がり続けます。

【抜本改革を】
 日本共産党は、これらの年金改悪に厳しく反対しました。「給付水準は現役世代の50%を保障」という政府の宣伝についても「5割保障されるのは年金受給がはじまる時点だけ」だと小池晃議員が参院本会議(04年5月12日)で追及するなど、当初からごまかしを批判してきました。
 日本共産党は、安心できる年金制度改革として、掛け金なしでも月額5万円の年金が受け取れる最低保障年金制度を全額国庫負担で創設し、この最低保障額に、掛け金に応じて給付を上乗せする抜本改革を提案しています。