創価学会破折
選挙不敗神話の虚実
―統一地方選で「大勝利」―
(横田一『週刊金曜日』H15.6.13)

今年の統一地方選では、公明党が擁立した候補2121人全員が当選した。自民党と共同で推薦した候補も連戦連勝。いまや地方議会に3400人以上の議員を送りこんでいる。自民党でさえ、800万票といわれる学会票の威力にあらためて震撼したことだろう。

 「ホップ、ステップ、ジャンプで1000万票獲得
 これが、最近、公明党や創価学会の幹部がよく口にするキャッチフレーズだという。ホップが今回の統一地方選挙、ステップが秋の可能性が高い総選挙、そしてジャンプの来年の参院選比例区で1000万票を獲得するというのだ。
 来年夏に照準をあわせる公明党の頼みの綱が小泉政権。不敗神話を誇る公明党だが、弱点は国民の拒絶反応が強く、支持の広がりに欠けること。だから国政選挙では、自らが前面に出ることは極力避ける。かつての新進党時代には3人の首相経験者(細川護煕・羽田孜・海部俊樹)がいることをアピールした。同じように現在では、小泉政権を前面に押し立てて選挙戦を戦おうとしている。そうすれば、公明党への拒絶反応が抑えられ、大台達成が実現できるという計算だ。

<選挙参謀の都議会議員>
 そんな役割を担う小泉政権を下支えしているのが、野中広務・自民党元幹事長と藤井富雄・公明党常任顧問のコンビだ。都議会議員ながら公明党の実質的な選挙参謀役である藤井氏が、抵抗勢力のドンと全国各地を飛び回り、選挙の連戦連勝に貢献しているのである。藤井氏の創価学会への影響力について、自民党の平沢勝栄代議士はこう話す。
 「警察官僚を辞めて、衆議院東京17区(葛飾区と江戸川区の一部)から立候補しようとした時、面識があった藤井氏に挨拶に行きました。すると、『なんとか葛飾だけは止めてくれ。他の選挙区なら、平沢君ならば、創価学会が総力をあげて応援する』と、選挙区の変更をもちかけてきた」
 この話は、、藤井氏が一声かければ創価学会は一丸となって動くことを物語るものだ。ちなみに、この時の東京17区の現職代議士は公明党のプリンスと言われる山口那津男氏(現・参院議員)。しかし平沢氏は藤井氏の提案を拒否、自民党公認を出し渋る野中氏にも頭を下げて、なんとか山口氏との一騎打ちに勝った。
 この藤井氏と野中氏のコンビが存在感を見せ付けたのが、昨年10月27日投票の衆参統一補選だ。この時、福岡6区の荒巻隆3候補(自民党公認。公明党と保守党が推薦)を応援するために藤井氏と野中氏は福岡入りし、同じ車に乗って九州自動車道を南下、広川インター近くの創価学会の「牧口久留米講堂」(広川町)に入るところを目撃された。地元の政界関係者は呆れて話す。
 「選挙戦の山場に自民党元幹事長と公明党幹部が仲良く創価学会の施設を訪ねた。これでは、政教一致そのものと言われても仕方がない」
 序盤の動向調査では、野中・古賀誠ラインが担ぎ出したとされる落下傘の荒巻候補は、地元出身で民主党代議士だった古賀一成候補(比例区からの鞍替え)に大きく水を開けられていた。だが告示日以降、九州全域から創価学会員がかけつけ、猛追したというのだ。
 先の政界関係者はこう続けた。
 「古賀一成さんは人柄も温和で新進党にいたこともあったため、ストレートに『荒巻対古賀』の形にすると、学会票の一部が同情票として流れる恐れがあった。そこで『学会対民主党』という構図が作り上げられ、『古賀一成氏の民主党は、学会批判をするフォーラム21(乙骨正生氏が発行人)を認めている。民主党が勝つと、池田大作名誉会長を証人喚問したいフォーラム21を勢いづかせ、証人喚問に一歩近づく』といった遠大な話が発せられたといいます。
 それで九州の学会員が福岡6区にかけつけた。これを学会用語で『交流をかける』というそうですが、彼らが頼りにするのが選挙区内の支持者名簿です。そこには『エフ(F)』と呼ばれる公明党にフレンドリーな有権者や『ダイヤモンド(D)』と呼ばれる大口の集票が期待できる企業がリストアップされています」
 選挙戦の終盤には、普段は見られない人たちの異様な姿が目に入ったと地元の住民は口をそろえる。名簿を手にした学会員らしき一団が戸別訪問を繰り返したり、若いカップルがコンビニの駐車場で「投票される方をお決めですか。まだでしたら荒巻さんをお願いします」と声をかけまくることもあったという。
 結果は、古賀候補の6万1080票に対し荒巻候補は8万4740票と予想以上の差をつけた逆転勝利。福岡7区選出の古賀誠代議士と福岡県創価学会副会長のM氏が地元で連携したとも囁かれ、最大の勝因は「約3万の創価学会票の約9割を固めたこと」というのが関係者の一致した見方である。

<名誉会長を持ち上げる首相>
 苦戦必至とみられた補選を勝ち越した小泉首相は、昨年秋の公明党大会で池田大作名誉会長を持ち上げ、選挙での支援に感謝を表明した。口先だけの小泉構造改革が露呈し支持率が低下しても、それを公明党と創価学会が埋めた形になったのだ。
 徳島県知事選挙もほぼ同じパターンだった。この知事選も、不信任された前職の大田正候補を民主党と社民党と自由党と共産党が推し、新人の飯泉嘉門候補を自民党と公明党と保守党が推すという与野党激突型。そして投票日の1週間前の5月11日、藤井氏と野中氏が現地に入った。
 当初、公明党は県本部単独で飯泉候補を推薦しており、党関係者までの浸透にとどまっていたが、野中・藤井コンビの参上で状況は一変。翌12日、特定郵便局長OBらでつくる自民党県大樹支部の会合で大物郵政族の野中氏が飯泉支持を訴えると、公明党県議らとの会合で藤井氏は
 「私が野中さんとこのように徳島を訪れたことでわかっていただけると思う」
と全面支援を示唆。これを公明党県議は「県本部推薦から党本部推薦へ格上げ」と受け取り、飯泉候補の浸透度が創価学会員にまで広がり、約3万票の上積みにつながったとされる。そして飯泉候補は、8489票の僅差で大田候補に競り勝った。
 創価学会票が勝利に貢献する形に気をよくしたせいか、野中・藤井コンビは、6月2日、与野党支援候補らが激突する札幌市長再選挙(8日投票)でも現地入りをし、特定郵便局長OBらでつくる「大樹の会」に出席した。結果は、保守票分裂の追い風を受け上田文雄候補が当選した。
 なお自宅が郵便局で、世襲も可能な「特定郵便局」は既得権益の温床だ。局長の給与は約900万円で、平均420万円の年間賃貸料収入も入る。小泉郵政改革で郵政公社が発足した今も、集票マシーンとして自民党に貢献してきた特定郵便局は聖域のまま。一昨年の参院選の高祖事件(郵政OBの高祖憲治候補を郵政関係者が支援し逮捕者が続出)の後、鳴りを潜めていたが、ここにきて選挙戦に再び顔を出すようになったのだ。ゾンビのごとく復活した「大樹の会」の内部文書(01年11月)には、こんなくだりがある。
 「大樹の組織は、郵政全国組織であって、対外的活動の拠点である。(中略)公明のやり方は『ウマイ』というか、『上手』というか、『ズルイ』というのか、全く善良且つ真面目にやっている市民をバカにするにも程がある。が、これが選挙というのなら我々も見習うべきだ。(下表参照)
 どうして、こんなうまい具合になるのかな。80万人程の居住者をコントロール出来ることに戦慄を憶える
 「戦慄を憶える」のは国民の方だ。日本有数の2大集票マシーンが二人三脚を組んでいる事実を、認めざるをえないからだ。政教分離などどこ吹く風で1000万票を目指しているようにみえる公明党・創価学会と、逮捕も恐れぬ郵政利権軍団が競い合うように小泉政権を選挙で支えれば、民意そっちのけの政権運営が半永久的に続いても不思議ではないだろう。
 それにしても、よくぞ、ここまで支離滅裂な面々が勢ぞろいしたものだ。「聖域なき構造改革」を訴えた小泉首相が創価学会や特定郵便局を聖域扱いにすれば、ハト派とし存在感のあった野中氏も、藤井氏と一緒にタカ派政権を支える。実働部隊の創価学会は、2人の会長(牧口常三郎、戸田城聖)が戦争反対を訴え不敬罪および治安維持法違反で逮捕され、牧口会長は獄死した。このことが原点のはずだが、いまや「イラク戦争反対は利敵行為」(冬柴鐵三・公明党幹事長)というタカ派路線を信認する役回りをしている。「大衆と共に語り、大衆と共に戦い、そして大衆と共に死んでいく」のモットーは死語と化し、「権力と共に語り、権力と共に選挙を戦い、そして癒着構造の中で生き長らえていく」という実態が露になるばかりだ。
 理念を捨てた野合権力集団の凄まじさが知れ渡れば、不敗神話が瓦解するのは時間の問題と思えるのだが。(よこたはじめ・フリーリポーター)

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市議選での票の配分
▲市議選での票の配分=自民党有数の集票マシーンをして「戦慄を憶える」「市民をバカにするにも程がある」と言わしめた学会の"票割り"の実態(「大樹の会」内部文書/『週刊金曜日』H15.6.13)