創価学会破折
敗戦に揺れる学会「鉄の結束」
(『AERA』/yahoo「政治記事読みくらべ」H21.11.9)
創価学会がよく使う言葉を1つ挙げるとすれば、「常勝」だろう。勝利が組織力を強め、信仰のすばらしさを実感する人もいる。ところが、この夏全力で応援した公明党が完敗、脆さが噴き出した。
ひっそりと衝撃の人事が発表されたのは10月下旬だった。
学会関西のドンと呼ばれた西口良三創価学会総関西長(71)が退任。機関紙『聖教新聞』は「西口良三総主事が誕生」と淡々と事実を伝えていた。
公明党の支持母体創価学会にあって、関西は「常勝関西」と称され、最高の集票力を誇ってきた。西口氏は30年以上関西のトップにあり、まさに君臨。小沢民主党幹事長らとのパイプ役も務めた実力者だっただけに、人事は衝撃をもって受けとめられたのだ。
「責任を取らされたんですよ」
ある学会関係者は呟く。
8月の総選挙。公明党は8小選挙区で全敗するなど改選時から10議席減となり、衆院進出以来最低の21議席に転落した。
【学会員に公明離れも】
とりわけ、関西では冬柴鉄三(73)、北側一雄(56)ら幹事長経験者を始め6人全員が小選挙区で落選。学会の池田大作名誉会長が1956年に大阪で参院選を仕切って以来、関西の国政選挙ではほぼ負けなしだった歴史が途絶える一大事となった。衝撃の大きさゆえ、重鎮のクビが1つ飛んだとも見られている。
総選挙直後、池田氏から学会幹部にこんなメッセージが発せられたという。
「古来負けるが勝ちといって、何か(敗北には)意味があるんだ」
「常勝」を旗印にしてきた学会+公明党のタッグが久しぶりに口にした「負け」だった。「現状維持でいいと思っている学会員なんて、誰もいないでしょう」(学会幹部)
学会と公明党、両組織の抱える綻びが敗北をきっかけにはっきりと見えてきた。まずは、両組織の関係。一枚岩に見られていた両組織だが、自公10年間で公明党の独自色は失われ、学会員の公明離れが進んだ。
「学会員だから公明に入れてくれるという時代はもう終わったんです」(公明党国会議員)
都内在住の50代学会員は今回、共産党に入れた。共産党と言えば学会の宿敵のはずだが、それでも今の公明党に入れるよりはマシに思えた。
「せっかく連立を組んでいたのに、自民党の暴走を止められなかった責任は大きい」
とりわけ、生活保護世帯への母子加算廃止を、公明党が推し進めたことには失望した。弱者救済こそが、公明党の売りなのではなかったのか。
【月百回の街頭演説を】
そして今回の選挙。子ども手当や環境重視の政策など公明党の十八番だった分野には、民主党がことごとく公明党の数字を上回る公約をぶつけてきた。鳩山内閣発足直後の全国紙調査によれば、公明党支持層の内閣支持率は4割にも達していた。
「なのに、公明党はいつまでも民主党の批判ばかり。それでは票は集まらない」(男性学会員)
公明党も、学会頼みの選挙から脱却を図り始めた。総選挙後、地方議員を含めた公明党議員にこんな通達が届いたという。
「毎月100回以上の街頭演説をすること」
まるで民主党の選挙戦術。当の議員関係者もこう自嘲する。
「小沢さんのやり方を参考にしたかもしれないけれど、今の公明党じゃ浮動票はとれない」
生活防衛路線では、与党と見分けがつかない。一方、党の面々を見れば、衆院で40代議員がたった1人という高齢化が進む。落選した太田昭宏前代表(64)が参院選で復帰するとの噂が流れるなど、世代交代も進まない。例えば、参院から衆院九州ブロックに転出した若手のホープ遠山清彦氏(40)は、ベテランに上位を譲って落選した。党青年委員長の谷合正明参院議員は現状に危機感を抱く。
「若い議員が増えないと、学会の方々にすらアピールできない」
また、別の党関係者は、
「『なんでこんなおじいちゃんばっかりになったの』と支持者から言われるようになってきた。公明党は解党的出直しが必要だ」
とまで言い切った。
とはいえ、公明党は今回比例区では800万票以上を稼いだ。
【成功体験が今や重荷に】
教勢が急拡大したある時期まで、「選挙運動を頑張れば、功徳が積める」という考え方もあって、会員は知り合いや友人のつてをたどって説得を重ね、公明票を集めてきた。そのやり方は間違っていないと信じる学会員は今も多く、「太田が危ない」と聞けば居ても立ってもいられず選挙応援に遠方から駆けつけるのは当然──。だが、そういう選挙手法そのものに、内部から疑問の声があがりつつある。
8月下旬。太田前代表の選挙区、東京12区(北区、足立区の一部)に足を運んだ関東在住の50代男性学会員は、街のソバ屋に足を運んだ。注文をし、店主に選挙の話題をもちかけた。
店主が口を挟んだ。
「お客さん、公明党の方ですか?お客さんで今日20人目です」
来る客くる客、注文をしては「太田さんをお願いしますよ」と頼んでいったというのだ。
この学会員が嘆く。
「全国からメンバー(信者)が来るのはいい。だが、無理のある応援をして帰って行く。逆効果じゃないか」
ポスターを貼っていいと家人に言われれば、許可した家人が後悔するほど5枚も6枚も一面に貼っていく。街頭演説に足を運び、アイドルが来たかと思うほど過剰に声援を送る。地元の自民党関係者から、「それでは票を減らす」という声があがったが、「これが私たちのやり方なんです」と「成功体験」を頑として改めようとはしなかった。結果、落下傘候補に1万票差をつけられ敗れた。ある党関係者は断じる。
「与党に10年間いて、もう公明党へのアレルギーは減ったと思っていたが、まったくそんなことはなかったことに愕然とした。『ひいきの引き倒し』のような選挙手法にこだわっていては、公明党への拒否感はぬぐえない」
だが、どうしたら、「外」に支持を広げられるのか、新たな成功パターンは何なのか、まだつかめない。悩みは深いのだ。
【学会員のパワー減退】
宗教学者の島田裕巳さんは学会の活動力そのものが、そもそも低下傾向にあるのではないかという見方を示す。
「生まれた時から信仰を得ている2世会員が増えたことで、非会員を説得して引き込む力が失われていったのではないか」
サラリーマン、共働きが増え、活動に割く時間そのものが減っていった。池田名誉会長が高齢のためか、表にあまり出てこなくなった。
「そういった要因が、会員のパワーを下げている」(島田さん)
学会には低所得者らをターゲットに教勢を伸ばした時期があった。長引く不況ゆえ、生活困窮者に学会が手を差し伸べる下地は眼前に広がりつつあるようにもみえるのだが、この不景気こそが、会員の活動自体を鈍らせる理由にもなっている。ある男性学会員が語る。
「昔は何部も聖教新聞を取って周りに配っていた学会員が多かったが、今はそんなことをできる余裕のある家は減った」
かつて学会の聖地だった大石寺参詣や一大イベントの文化祭がなくなり、「信仰の勝利」を実感する場面は選挙活動くらいになった、と話す会員もいる。その選挙活動すら報われないとなれば、学会の求心力も失われかねない。
冒頭の人事。西口氏の後任は置かれず、関西の最高参与として池田氏の長男博正氏が就任した。実力者の西口氏を棚上げし、博正氏への禅譲に道筋をつけるつもりではないか──そう見る学会関係者も中にはいる。
だが、別の学会関係者はその見方をこう否定した。
「学会のあり方が変わり、活動方針も含めて模索しなければいけない時期。そんなときに単に2世だからという理由で博正さんに実権がわたると思っている人はいませんよ」